原子間力顕微鏡(AFM)のアサイラム リサーチ

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   有機太陽電池のナノ構造およびデバイス物理を理解するためのフォトコンダクティブ原子間力顕微鏡

                                                                                                
 

Xuan-Dung Dang and Thuc-Quyen Nguyen Departments of Chemistry & Biochemistry, Center for Polymers and Organic Solids, University of California, Santa Barbara, CA

プラスチック太陽電池は、安価なロールツーロール(roll-to-roll)印刷により容易に製造できることや、軽量で柔軟性があるなどの利点により、これからの代替エネルギー源として台頭しつつあります。しかしながら、デバイス物理や光活性層のナノスケール形態の理解が乏しいことから、実用化のためには、現在の性能ではまだ低い状態です。フォトコンダクティブ原子間力顕微鏡は、有機太陽電池の光電子や形態による複雑な現象を、ナノスケールで理解するための、パワフルな特性評価ツールです。この研究のすべてのデータは、アサイラム・リサーチ社のMFP-3D™原子間力顕微鏡を使用して測定しました。

はじめに ― 無機および有機太陽光発電
1時間に地球の表面に届く、太陽の使用可能なソーラーエネルギーを電気に変換すると、世界中が1年間に必要なエネルギーを満たせる可能性があります1。プラスチック太陽電池はコストが低く、軽量で、柔軟性があり、製造や導入が容易なため、未来に向けた次世代のエネルギー創出技術であると期待されています。1986年にTangによって発表された最初の有機半導体ベースの太陽電池は、変換効率が1.0%でした2。有機太陽電池の研究が本格的に活発になったのはここ数年ですが、変換効率は今では7.7%を達成しました3。科学者たちは、これから数年で変換効率10%以上を達成することを目標にして、さらに太陽の光子を集めるための新規材料や、出力を最適化するための新しいデバイスの基本構造を設計することに尽力してきました。この分野における多くの発展や進歩があったにもかかわらず、技術はいまだに実用化には程遠い状態です。より高い変換効率の達成をはばむ要因は、デバイス物理の理解や、光活性層の形態がどのようにデバイス性能に影響を及ぼすのかについての理解が、十分でないことにあります。

p型とn型の2層の半導体で構成される、従来型の無機太陽光発電では、光吸収物質が、直接、電流発生のための自由電子と正孔を生成します。無機太陽電池の光活性層は、電荷キャリア移動度が高いために、マイクロメーターレンジで作製されます。それに対して、有機太陽電池では、光吸収により、電子と正孔が対になって結合している励起子を生じます。電力を生成するためには、励起子を自由電子と正孔に分離する必要があります。励起子を分離するためには、適切にエネルギーレベルを調整した電子ドナー・アクセプタ界面の活用が必要です。このため、ドナー分子とアクセプタ分子の混合物からつくられた光活性層が開発されました。いわゆるバルクヘテロ接合構造(ドナーとアクセプタの共連続ネットワーク)です。太陽光を照射すると、光生成キャリアは、それぞれドナーやアクセプターの層を通ってアノード電極やカソード電極に向かって移動し、収集されて電力を発生します。有機太陽電池の光活性層は、電荷キャリア移動度が非常に低いため、多くの場合、厚さが200nm未満です。

ナノスケールの形態
有機太陽電池では、電荷生成および電荷輸送はナノスケールの形態に強く依存し、それはバルク全体にわたるドナー・アクセプタ配列のネットワークとして定義されています。太陽電池の効率改善の中心になるのは、励起子解離のために大きな面積の界面を得て、同時に、電荷輸送のために連続したドナーとアクセプタのネットワークを形成する、光活性形態のエンジニアリングです。図1 はデバイス構造および典型的な太陽電池の形態の模式図です。各構成要素の最適な相は、励起子の拡散長より小さい10nm〜20nmのドメインサイズであるべきです。

ナノスケールの形態がどのように電荷の生成や輸送に影響しているかについてより理解を深めるには、デバイスに生じるナノスケールでの光電子プロセスを理解するためだけでなく、2つの構成要素の相分離を可視化するための強力なツールが必要です。この目的のために、高分解能な透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型プローブ顕微鏡(SPM)のような多くの技術が展開されました。SPMは、原子間力顕微鏡(AFM)や導電性AFM、時間分解静電気力顕微鏡(trEFM)および走査型ケルビンプローブ顕微鏡(SKPM)といった、さまざまなスキャニングおよび測定のモードと共に、バルクデバイスの性能がもつ、ナノ構造や光電流発生における局所的な不均一性の直接的な相関を確立しながら、太陽電池材料の形態や電子、光電子の特性の局所的なプロービングを同時に行うことができます4,5


図1: (a) ガラス/ITO基板上に析出させたPEDOT:PSSからなる典型的な太陽電池の構造。光活性層はPEDOT:PSS膜の上面にスピンキャストし、続いてアルミニウムのカソード電極を蒸着しました。(b) 形状像は原子間力顕微鏡を用いて測定しました。相分離が見えており、黄色の領域がドナー相で紫色がアクセプター相です。活性層におけるドナーおよびアクセプターのナノスケールの相分離は、効率的な励起子解離や電荷輸送を達成するために必要です。
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フォトコンダクティブAFM
近年、フォトコンダクティブAFM(MFP-3Dを使用するpcAFM)は、太陽電池材料を分析するための手段を提供してきました6,7。pcAFMは光源を備えた導電性AFMのセットアップ8がベースになっています(図2)。光は倒立型光学顕微鏡を使用してITO(酸化インジウムスズ)を通してデバイス上に焦点を合わせ、サンプル(例えば膜またはデバイス)はドライ窒素をフローさせた密閉セルの中にセットします。AFMのプローブは、電流を印加バイアスの関数として記録するために、サンプル表面上の特定のポイントに配置します。または電流マップを得るために、一定の印加バイアスをかけたプローブでスキャンすることもできます。金属コートシリコンプローブは、仕事関数を変化させて、正孔または電子のどちらかを収集するための上部ナノ電極として用いることができます。pcAFM測定で使用されるプローブの半径が小さいために、ナノスケールでの太陽電池の性能を調べることができ、相分離、電荷発生、電荷移動および電荷収集の全体像を提供するバルク測定と関連づけることができます。pcAFMが調整可能な単色の光源を備えている場合、形態や光電流発生を空間的にだけでなく、スペクトル的に明らかにできます9


図2: MFP-3D AFM(アサイラム・リサーチ社)を用いたフォトコンダクティブAFM(pcAFM)のセットアップの模式図。pcAFMはコンタクトモードで動作し、金または白金コートしたシリコン探針などのコンダクティブAFMプローブを使用します。(画像をクリックすると拡大版をご覧いただけます。)

光活性層におけるドナー分子およびアクセプタ分子のナノスケールの相分離は、同じ場所での電子およびホール収集のネットワークのイメージングによって明らかになります。この研究についての詳細は参考文献7にあります。金コートシリコンプローブの仕事関数(〜5.1eV)が高いために、開回路電圧以上のバイアスが印加された場合、光発生した正孔は、AFMプローブで収集され、電子はITO電極で収集されます。開回路電圧以下のバイアスが基板に印加される場合は、このプロセスは逆になります。つまり、光発生した正孔はカソードの方へ移動し、プローブの探針は電子を収集します。印加バイアスは十分に小さいはずなので、電極からの電荷注入はありません。そのため、正バイアスおよび負バイアスで収集される光電流の構成は、膜表面でのドナー相やアクセプタ相にそれぞれ対応するホールや電子の収集ネットワークを明らかにします。例を図3に示します。ドナー相とアクセプタ相の分離は形状イメージでは明確ではありません(図3a)。+1Vのバイアスを基板に印加したとき、膜表面のドナードメインが可視化できており、直径200nmでした(図3b)。同じ場所で、直径20nmの電子収集経路が、印加バイアス-1Vでイメージングされています(図3c)。バルクデバイス10 の効率の低さの一因は、ブレンド膜中でドナー物質とアクセプタ物質の相分離が大きいことで、それは励起子分離や電荷収集経路の断絶のために、界面領域の縮小になります。


図3: 30:70 DPPBFu:PC71BM膜の、 (a) 形状イメージ、 (b) +1Vでの電流データ、(c) -1Vでの電流データ。光活性膜はITO/PEDOT:PSS基板上に析出させました。形状像および電流イメージは白金AFM探針を使用して、基板にバイアスをかけて得ました。イメージのサイズは2µm ×2µm。
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参考文献
  1. Duncan Graham-Rowe; Solar cells get flexible, Nature Photonics 1, 433 (2007).
  2. C. W. Tang; Two-layer organic photovoltaic cell, Appl. Phys. Lett. 48, 183 (1986).
  3. H. Y. Chen, J. Hou, S. Zhang, Y. Liang, G. Yang, Y. Yang, L. Yu, Y. Wu and G. Li; Polymer solar cells with enhanced opencircuit voltage and efficiency, Nature Photonics 3, 649 (2009).
  4. L. S. C. Pingree, O. G. Reid and D. S. Ginger; Electrical Scanning Probe Microscopy on Active Organic Electronic Devices, Adv. Mater. 21, 19 (2009).
  5. C. Groves, O. G. Reid and D. S. Ginger; Heterogeneity in Polymer Solar Cells: Local Morphology and Performance in Organic Photovoltaics Studied with Scanning Probe Microscopy, Account of Chem. Res. 43 (5), 612 (2010).
  6. D. C. Coffey, O. G. Reid and D. S. Ginger; Imaging local photocurrents in polymer/fullerene solar cells with photoconductive atomic force microscopy, Nano Lett. 7, 738 (2007).
  7. X.-D. Dang, A. B. Tamayo, J.-H. Seo, C. Hoven, B. Walker and T.-Q. Nguyen; Nanostructure and optoelectronic characterization of small molecule bulk heterojunction solar cells by photoconductive atomic force microscopy, Adv. Funct. Mater. published online on August 5, DOI: 10.1002/adfm.201000799 (2010).
  8. D. Mark, J. Peet, T.-Q. Nguyen, Nanoscale charge transport and internal structure of bulk heterojunction conjugated polymer/fullerene solar cells by scanning probe microscopy, J. Phys. Chem. C, 112, 7241 (2008).
  9. X.-D. Dang, A. Mikhailovsky and T.-Q. Nguyen; Measurement of nanoscale external quantum efficiency of MDMO-PPV:PC71BM solar cells by photoconductive atomic force microscopy, Appl. Phys. Lett., accepted for publishing.
  10. B. Walker, A. B. Tamayo, X.-D. Dang, P. Zalar, J. H. Seo, A. Garcia, M. Tantiwiwat, T.-Q. Nguyen; Nanoscale phase separation and high photovoltaic efficiency in solution processed, small molecule bulk heterojunction solar cells, Adv. Funct. Mater. 19, 3063 (2009).